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鎚起作家 西片亮太さんにお話を伺いました

鎚起工房 清雅堂は、「鎚起銅器」発祥の地、新潟県弥彦村に工房を構えています。
作品制作の中核として活躍する西片亮太さんに、工房での作業の様子をはじめ、鎚起銅器の独特の技法や魅力についてお話ししていただきました。

西片亮太さんのご紹介はこちら
https://kamakuraseigado.stores.jp/news/5fc84a588a457204fd4738d1

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工房では、西片さんのご家族みなさんが制作に関わり、定型マニュアルにそった作業ではなく、息のあった作業の流れが自然にできていく
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現在、鎚起工房 清雅堂は、二代目当主になります私の父・西片正のもと、私と、私の弟・浩の3人で鎚起銅器の制作を行っています。
鎚を使って形を起こしていく工程や、銅器の内側に錫を引く作業などは、個々の仕事ですが、仕上げの色上げ作業になると、母と私の妻(現在は育児休業中)も加わります。色上げは、短時間でやったほうが効率というか成功率も上がりうまくいくので、人数かけてやることが多いです。

色上げは、金属、つまり銅を錆びさせることによって銅の表面を発色させる作業です。
時間がかかると、空気に晒される時間が増えるわけで、そうすると、シミが出やすくなったり、求める色になりにくかったりするので、なるべく作業が始まったら短時間で全てを終わらせた方が、綺麗な色が出やすいんです。

色上げの具合や、鎚目の出し方などのイメージを指示することもありますが、作業に関わる者は、それぞれが状況を見ながら携わっていき、自分でどうするかわかってるので、スピーディーに工程を進めることができています。

何を作るかによって、誰が作るのかも、なんとなくわかっているという感じです。「この注文は、自分が作ろう!」って、自然に作業が始まります。

例えば、ちろりに関しては、私と弟が中心になって作ることが多いです。茶筒とかになると本体は弟が作り、装飾の部分、彫金の部分は、父がやるというようなことが多いです。

弟が工房に入ったのが、今から6年ほど前になるんですが、以前は私がやっていた仕事をだんだん弟にシフトしてきています。そして、父がやってきた仕事を、だんだんと私がやるようになってきた…より難しい作業を、今、私ができるようになってきて、私がやってきたことを、弟もできるようになってきて……技術の受け渡しが、少しずつできていると思います。

弟はこれから、自分の作品を作っていくという過程ですが、近い将来に、父、私、弟の3つの個性による方向性というか、作風が出てくるというのが理想だと考えています。

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ニーズに応えることで進化する清雅堂独自の青藍色
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青藍色は、清雅堂の初代が工夫して作った独自の色です。
祖父がやっていた頃は、おもに茶器、茶筒や茶托などに使ってたんです。
私が自分の作品を作り始めた頃に、知人に「青い色で盃を作ってくれない?」と頼まれて、そこから、青藍色を多く用いるようになりました。この色の魅力や珍しさについて、周りから聞くことで、さらに、この色を意識するようになっていったんです。

20代の頃、作品を作って発表していく作家としての活動を目指して、東京のギャラリーに作品を置いてもらっていたことがありました。青藍色の盃を販売してもらっていたんですが、そのギャラリーのオーナー氏にお会いする機会があったときに、「この青は世界中、どこにもない青だ。これだけで、世界で勝負できると思う」と言われました。

それで、ギャラリーと二人三脚で作品作りに取り組みました。大きめの器状のオブジェに挑戦したのですが、広い面に一定の青を出すのはすごく難しい作業なんです。
鎚起銅器をされている燕の職人さんでしたら、やり方はわかると思うんですけれども、難しいからやらないんです。成功率が高くない。

私も、ギャラリーに出す作品を作るときには、色上げが1発でいくということはほとんど無かったです。失敗しながらやって、1つひとつ失敗の要素を削っていってやっと成功する……1つの作品を成功させるのに、何日もかけていました。基本的にはひとりで仕上げまでするんですけれど、どうしても一人でできない工程があって、そのときは母にアシストしてもらいながらやってました。でも、あまりにも失敗が多いので、当時は母にも難題を付き合わせました。
母はある程度のところで、「これでいいんじゃない?」っていうんですけど、私は「ダメだ、やり直す…」って、その繰り返し……胃がキリキリするような仕事でした。

ギャラリーで取り扱ってもらう作品に取り組むことで、形作りも、色上げのこともとても良い経験を積んだと思います。そこから、自分の技術的なレベルがすごく上がったなぁと感じています。

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海外のアートフェアに出していく中で注目を集め、世界のアートコレクターからも人気が高い。作品のうち1点は、イギリスのマンチェスター美術館に収蔵されている。
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伝統技法から、一歩踏み出した茜色の器
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茜色も、清雅堂のオリジナルの色です。
赤は銅が焼き切れる寸前まで温度を上げて得られる色です。清雅堂の作品では、赤だけのものは紅色と呼び、茜色は赤と青、もしくは褐色が混ざった色彩のものです。

父が茜色、もしくは紅色を使って燭台や花器、急須台などを作ってきたんですが、それはすべて、口につけて使わない器ばかりだったんです。
鎚起銅器は、口をつけて使う器にはすべて内側に錫を引くという工程が入ります。銅には、どうしても金属独特の匂いがあり、また時間が経つと緑青が発生してしまう。これらを抑制するために、内側に錫を引くという工程は銅器に欠かせないものなんです。

ところが、紅色に発色させたものに錫を引こうとすると、錫を引くときの炎で、紅色が損なわれてしまうんです。逆に、錫を引いた後に、紅色を付けようとすると、その時の炎で、引いた錫がすべて焼き飛んでしまうんですね。
なので、紅色と錫を一つの銅器の中に同居させるのは不可能な技術だったんです。

なのですが、「紅いコップが欲しい、紅い盃が欲しい」というようなユーザーの声が、昔からずっとありまして…私も、ずーーっと考えてたんです。
それで、ある時、鍍金を使えばできるんじゃないかな? と考えついて、いつもお願いしている鍍金屋さんと、何度も何度もやりとりをしながら、ようやく実現したのが最近の、茜、もしくは紅色の盃なんです。一昨年ぐらい前から、作品として出せるものになりました。紅色が入っている銅のぐい飲みとかコップは、他におそらくないと思うので、注目してもらってますね。

もの作りを続ける中で、使ってくれている人の声を聞くことは、とても大事なことです。
鎌倉清雅堂からも、これまで多くの特注品の依頼を頂いてきて、様々なものを作ってきました。そのようにお客様のニーズから、新しい作り方や商品が生まれるケースは多いです。
その時代、その人に必要とされるものをずっと作り続けられるよう、これこらも伝統の技術も新たな技術も共に身につけ、高めていきたいです。

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